「まさか、あのお金大好きな袋状モンスターが私の財布まで盗んで行くとか予定外すぎた…。魔王様の城まで帰るのに、テレポートの魔法が使えない私は歩いて帰るしかないなんて…」
食べることもできずに歩き続けている側近はついに疲れがピークに達してその場に座り込んでしまった。
「せめてどこかでお金を借りれればいいが、私は世界征服を目指す魔王様の側近…。こんな私に人間が金を貸すはずがない。というか、そもそも魔王の側近なのに自力で帰らないと行けない時点でおかしいよな」
ふと、目の前の看板が側近の目に止まった。
「どんな人でも融資!お気軽にご相談ください…?ほう、職業や収入、種族にかかわらずどんな人でもお金を即貸しますだと!!審査が甘いなんて素晴らしい。これは助け舟というやつだ!さっそく行かなければ!!」
側近に元気が戻って立ち上がった時だった。
「ちょーっと待った!!ダメだよー!!」
「誰だ!?」
側近を止める声に振り返るとそこには勇者たちが居た。
「お前は勇者!なぜここに!!」
「あれ、僕らのことを知っているの?僕らも有名になったものだなー」
「勇者、そんなことよりこの人を止めないと」
「そうだった。君、この看板を信じちゃダメだよ。これは悪徳業者の看板なんだ」
「なんだって!?」
「審査が甘いキャッシングっていうのは罠なんだ。誰にでもお金を貸すっていうのは本当だけどね、その後の取り立てが酷かったり、違法な金利を請求してきたりするんだよ」
「し、しかし私にはこれぐらいしかお金を借りるところなんてないんだ…!」
「でも、後になって大変なのは君だよ。昼夜問わずにやってくる暴力的な取り立て。家族や職場にまで被害が及ぶんだ」
「わ、私には産まれたばかりの子供が…。それに上司にも御世話になっていて迷惑なんてかけられない…」
「だろう?自分だけでなく家族や親戚、職場など色んな人にまで迷惑がかかる場合があるんだ」
「それは苦しい…甘い言葉に誘われて危うくお金を借りるところだった!」
「僕たちはいまこの悪徳業者の看板を撤去して回っているところだったんだよ」
「勇者、ありがとうございました!頑張って歩いて帰ろうと思います!!」
「あれ、そういえばどうしてお金に困っていたの?」
「実は財布をとらててしまいまして。遠いところまで帰るのに途方に暮れてたところでした。お金があれば相乗り馬車に乗って行くのですが…」
「それは大変だったね。これをあげるよ」
「こ、これは自分の家に一瞬で変えれる魔法の道具!いいんですか!」
「うん、困ってる人を助けるのが僕らの仕事だしね」
「ありがとうございます!この御恩決して忘れません!!」
「いいよいいよ、気をつけて帰ってね。それじゃ」
そういって看板を撤去した勇者たちは立ち去った。
「助かった。勇者に感謝しなければな。…って、私は敵に助けられてないか…?」
側近はいまになって自分の敵が勇者であることを思い出したのだった。